従来どの版画技法でも原画は一旦ポジフィルムで撮影され、次にそのポジフィルムをスキャナーでデジタルデータに変換して印刷用や複製版画用に使用されてきました。しかしほとんどのポジフィルムは版画複製に関係しない外部のカメラマンによって撮影され、メリハリのない平面的な仕上がりになりがちでした。版画複製で重要なことは、単に色調が原画に合っているだけでは不十分で、大事なことは原画の持つ質感、材質感そして微妙な階調表現すなわち奥行き感が可能な限り表現されていなければならない、ということです。特にジクレー技法では他の技法と違い後工程で新たに階調を追加したり新たな表現効果を追加したりはできませんので、最初の工程である原画撮影で個々の原画の個性や絵の具の状態を工房自身が見極めながら専用の高精細デジタルカメラを駆使して直接デジタル撮影していくことが必須になってくるのです、決して他人任せにできる工程ではありません。やはり、質の高い完成度の高いジクレー版画を実現するためにはポジフィルムを使用せずダイレクトに原画を高精細デジタル撮影するのが最善なのです。当工房では原画の撮影を行うにあたって、撮影条件を変えながら何度も撮影し、撮影の都度必ず最終の本摺り素材で試し刷りをして色調を含めた撮影データが適切かどうかの確認を行っています。従って、撮影だけで一日以上かかることも珍しいことではありません。当工房で原画の撮影とは『撮影と試し刷りを繰り返して色校正まで行う』工程のことを意味します。さらに当工房では多種多様な原画の撮影も行っています、フラットな原画はもちろん厚手の本、襖絵や屏風絵そして額装されたままの絵画やコラージュのような立体作品まで撮影が可能です。当工房の撮影設備は国内唯一の最大画素数が5億4千万画素(ピクセル)の超高精細で且つ撮影可能な原画の最大寸法は2mx2.5mの大きさ位まで可能です。
 
 
カラーマネジメントを簡単に説明しますと、デジタルカメラで撮影されたイメージがモニター上で原画同様の色調、明暗で表示されるように、プリンタではモニター上で表示されたイメージ通りの色調、明暗で出力されるように各入力・出力機器の色調、明暗を統一的に補正制御するシステムのことです。ご存知のようにコンピュータで画像ソフトを使用しておこなう色校正は、撮影時のイメージデータ量を減らすことにより達成されます。したがって、何度も色校正して色調を変更しますとイメージデータ量が減って階調表現エリアの諧調が消えてしまいイメージのメリハリがなくなってフラットに見えてきて、最後にはトーンジャンプが発生してそのイメージデータは使い物にならなくなります。つまり、コンピュータによる色校正は量、回数ともに少なければ少ないほどいいということです。撮影時に原画のイメージデータを可能な限り正確・忠実に撮ることができ、モニターができるだけそのイメージ情報を正確に表示し、プリンタがモニターに表示されている通りに出力できたらコンピュータによる色校正の量、回数を最小にすることができます。すなわち、カラーマネジメントを活かして色校正がなされれば、コンピュータによる色校正は最小化することができるということです。コンピュータによる色校正の量、回数を最小化することは高品質で完成度の高い版画複製を制作する上で必須条件であり、ここにカラーマネジメントシステムを導入する意義があります。
 
 
ジクレー版画技法とはいえ万能ではありません。例えば、リトグラフやシルクスクリーンのように金、銀の様なメタリックカラーや白やスポットカラーといわれる金赤のような高彩色、さらには蛍光色等も表現できません。当工房ではこれらをカバーするためにシルクスクリーン印刷を併用実施しています。さらに、シルクスクリーン印刷でメディウム等のオーバーコートや各種効果も実施しています。ジクレー技法とシルクスクリーン技法のいいとこ取り(ミクストメディア)を用いることで、100%シルクスクリーン印刷で版画制作するよりもはるかに低コスト・短納期を実現しています。何より留意すべきは、シルクスクリーンとのミクストメディアが高品質・高級版画として一般的に認識されているという事実です。皆様が展示販売する際、ミクストメディア版画として販売できることのメリット、強みを活かせるということです。まずは当工房までご相談ください。
 
 
モノトーンイメージとは、単純に言えば無彩色の白とグレー、黒で成り立っているイメージということができます。したがって、白とグレー、黒だけで原画や書が持つ質感、材質感を表現し非常に微妙な濃淡差、階調表現を原画に忠実に複製再現しなければなりません。フルカラーイメージよりさらに慎重かつデリケートな撮影スキルが要求される分野です。これを豊富な経験を基に水墨画の複製版画や『書』の複製版画を原画、原書の撮影から一貫して行っています。
 
 
使用インキはすべて顔料インキですので、各種素材に本摺り後追加的に手彩色したり、裏打ちしたり軸装したりしてもインキが滲んだりすることはありません。用紙サイズは最大紙幅162cmまで、紙厚も300gsmから460gsmまでそろえております。さらにご要望に応じて、キャンパス地ではウエットラミネートを、水彩画にはシルクスクリーンによるメディウム等のオーバーコーテングを実施しております。